高知から持続可能な交通を実現する(56) 「再検討:大変健闘しているごめん・なはり線」
高知から持続可能な交通を実現する(55)の続きで、ごめん・なはり線の健闘ぶりについて、再検討しよう。再検討する記事はこちら、
ご指摘の内容について、逐次回答する形で進めていく。
>統計の元データはなに?
出典や、輸送人員の単位は一年間なのか1ヶ月あたりなのか1日あたりなのか分からないというご指摘であるが、まず、出典は、高知県交通政課でいただいた「土佐くろしお鉄道(株)の会社概要」による。A3プリント1枚に、輸送人員や経営状況、職員数の推移、主要役員などのデータが収められている。そして、輸送人員に関しては「一年間」である。どちらも抜かったのは、私が「データなど会社発表にしろ国交省のデータにせよ、基本的に1種類しかないはずだし、年間の輸送人員なのは明らかだ。書くまでもない。」と思ったことによる。たたし、そうではいけないようだ。今後、気をつけなければならない。
ということで、グラフを書き直した。
>統計の読み方が杜撰
これも、おっしゃる通りである。「2002年度が7月開業と書いているので9ヶ月間であるのは明らか。そこは、読者が判断すればいい。」と思って、9ヶ月間と12ヶ月間のデータを注意書きもなしに比べて書いてしまった。考えが浅はかだったと言わざるを得ない。そのため、平成15年度以降を対象に比較してみた。
全体の輸送人員は、平成18年(2006年)度で約118万人。平成15年(2003年)度には約96万人であったから約1.23倍の増加である。
通学定期の利用に関しては、平成15年(2003年)度には約38万人であったものが、平成18年(2006年)度には54万人にまでと約1.43倍に増加している。これに関しても鋭いご指摘があるので、後述する。
通勤定期客もわずかながら増加傾向にある。平成15年(2003年)度には、約13万人であったが、平成18年(2006年)度は、約18万人と約1.38倍の増加を見せた。ただし、絶対数としては約5万人の増加であり、通学定期客ほどではない。
(夜須~西分 雪景色の中を走る9640形2両編成)
>なぜ通学定期利用者が増えたのか考えた形跡がない
ご指摘の通り、高校入学者数が減少する中で、通学定期利用者数が増加するとは異常事態だ。それも、3年間で1.43倍だ。当然、疑問に思うはずだが、だいたいの理由を知っていたので、ちゃんと言及してなかった。
まず、平行して運行される安芸線バスから徐々に転移したと思われる。安芸線バスは、開業と同時に運賃をほぼ同額にした。それは、関係者にとっては予想外の出来事で心底驚いたとか。結果として、なはり線開業1ヶ月たってもバスの乗客数は1割減となかなかの健闘ぶりであった。なはり線開業前だから、当然、なはり線以外の手段で通学していた。それは、他の利用者も含めて半ば慣習と化しているので、運賃が同額になるなら、別にすぐに乗り換える必然性が感じられないのも当然だ。
(安芸線のバス 後免町駅)
実際、知っている人の話だが、開業時は高校2年生で手結バス停から安芸線バスに乗って高知市内の追手前高校に通学していた。バスの行方は気になっていたようだが、定期券も同額になると分かると、そのままバス利用を続けることになった。なはり線利用だと高知駅からが不便だということも大きな理由である。自転車置いておくにしても学校の手続きが面倒であるとも言っていた。卒業までバス通学を続けたのは言うまでもない。
開業した平成14年(2002年)度は、中途半端に7月1日開業ということもあっていわば序幕であったのだろう。翌年の平成15年(2003年)度からが本番とも言える。高校生の開業前と開業後の入学について分かりやすく下に示してみよう。
<平成14年(2002年)度>
高校1年生: 開業前入学
高校2年生: 開業前入学
高校3年生: 開業前入学
<平成15年(2003年)度>
高校1年生: 開業後入学
高校2年生: 開業前入学
高校3年生: 開業前入学
<平成16年(2004年)度>
高校1年生: 開業後入学
高校2年生: 開業後入学
高校3年生: 開業前入学
<平成17年(2005年)度>
高校1年生: 開業後入学
高校2年生: 開業後入学
高校3年生: 開業後入学
高知新聞の記事は、初年度の状況として、「通勤、通学など定期利用者は24万6360人(同37・9%)と伸びておらず、今後の課題だ。」と伝えているが、これはある意味当然かもしれない。年度の途中で開業したのだから、高校生全員が開業前の入学である。すでに、既存の交通手段で通学が成立していたのだから、なはり線にわざわざ乗ろうという動機付けは薄いと思われる。特に、当時高校3年生であった方々は、卒業までそれほどない。物好きでない限りわざわざ変更することもないと思われる。
当初の予想では、平成14年度で定期客65万人を見込んでいたらしいが、安芸線バスがさほど値下げをしないという前提に立っていたものと思われる。もし、値下げを決断してなかったら、確かに予想通りとはいかなくてもかなりの定期客を確保していたはずである。
平成15年(2003年)度に入って、初めて入学時からごめん・なはり線が存在するという層が現れる。この層がどういう交通手段を選択をしたのか、詳しく調べてみる必要がありそうだ。また、年度が変わって上に上がった高校2年生や3年生がどういう選択をしたのかも興味が尽きない。
平成16年(2004年)度になると、開業前入学は、開業年度に入学していた高校3年生のみ。翌年度の平成17年(2005年)度には、完全に世代交代。これ以降は、完全にごめん・なはり線世代である。
グラフを見ると、確かにこれと関連した傾向が読み取れる。平成15年度から、平成17年度にかけての通学定期客の増加傾向は、傾き(増加率)がほぼ一定。これは、開業後入学世代が一つ増えると、通学客も増えている。完全に、なはり線世代になったためか平成17年(2005)度から平成18年(2006)度には、増加は微増にとどまっている。
これらのことから、なはり線開業後入学する世代は、安芸線バスや高知東部交通バスよりもなはり線を選択しているものと考えられる。
また、香南市野市地区などから高知市内などの高校に通学する場合は、開業前は、土佐山田駅や後免駅に自転車やマイカー送迎でアクセスしていた生徒もかなりいたと思う。安芸線バスがあるが、かなり高いので、安価なJR利用者がかなりいた。開業後は、定期運賃もバス時代より安くなったこともあり、直接のいち駅からの利用者がほとんどになったと思われる。実際、ラッシュ時ののいち駅の乗降客には目を見張るものがある。
それに、夜須町であっても南国市の農業高校や東工業高、そして安芸市の安芸高に自転車で通っていた同級生もいた。特に、安芸の場合サイクリングロードが整備されているので快適に走れるし。でも、バス時代よりも安くて速いなはり線が出来てからは、そちらの利用にシフトしていったのだろう。
通学環境の変化。なはり線が出来てから開業前と比べて大きな変化とは、高速化と運賃低下である。それらにより、より遠くの高校まで通学可能となった。例えば、朝に安芸方面へ快速が立て続けに3本運行されているが、それにより南国市や香南市野市地区からも安芸市へ通勤・通学が楽に出来る。特に、マイカーをもてない高校生にとっては非常にエポックメイキングな出来事である。これも重要な視点と考えれるが、実際どれくらい変化したのか把握しずらい。今後の、検討課題であるだろう。
>1億円近い赤字(経常損益)が出ているのに……
「赤字が出ているのに健闘しているのか」というご指摘である。確かに赤字である以上、大健闘とは言えないかもしれない。ただ、初年度は、約5700万円の赤字を予想していたが、実際には1200万円の黒字であった。これは要するに、予定より約6900万円多く稼いだということだ。初年度の予想は、定期外客は44万1000人を見込んでいたが、実際には54万2332人の実績で、計画比の123%。一方で、定期客は、65万人を見込んでいたが、実際は24万1360人の実績で、計画比のわずか37.9%。合計では、78万8692人であったが、109万1000人を予想していたため、計画比の72.3%にとどまった。定期外客は、開業ブームもあり予想以上、定期客は低迷と言ったところか。それでも、収益では予想を覆して黒字になったのだから出だしは、健闘と言えようか。
平成15年(2003年)度は、本来1億8000万円の赤字を見込んでいたが、実際には約1億200万円の赤字であった。そういう意味では予想以上の健闘とも言えなくもない。ただし、輸送人員に関しては、開業時に計画した平成15年(2003年)度以降の年間輸送人員145万人に全然届かぬ96万4394人であった。それは、平成18年(2006年)度の約118万人ですら到達していない。
しかも、乗客数が増えているに関わらず、赤字額は減っていない。乗客数が一気に16万人増加した平成16年(2004年)度から17年(2005年)度にかけては、赤字が解消してもおかしくないのに、約8674万円から約7592万円と約1000万円減少したに過ぎない。どこかで、経費が増加したと考えるのが妥当なところだが、何かの償却の絡みもあるかもしれない。
とはいえ、安芸線バス時代よりも明らかに多くの人々に利用されているのは間違いない。特に、定期外客に関してはその傾向が読み取れる。バスはスピードが遅い上にダイヤの信頼性も乏しく、乗り心地があまりよくなかった。バスは敬遠していたが、鉄道なら利用すると言う沿線住民もかなりいるのではないだろうか?
加えて、たとえ鉄道事業そのものが赤字であっても、沿線活性化を含めて考えるとそれを補っても余りあるメリットを生み出しているのではないかと思う。高知新聞のバックナンバーを読んでも分かるが、駅の物産館の売上はかなり好調であったそうだ。そういうことや、そのその他外部効果(渋滞軽減、環境負荷低減、時間短縮などの効果)を全部加味すると、本当は黒字であるのでないか。それをどうやって回収するかという問題はまた別であるが…。
そして、ごめん・なはり線は、美しい車窓も相まって全国の鉄道路線の中ではかなり人気がある方でである。この路線の存在により、高知県東部地方もより認知されるようになった。これは地域の大きな財産である。
(琴ヶ浜付近 美しい車窓風景を楽しめるのも特徴)
ここまで、長々と書いてきたがより詳しく調べるには、さらなるデータの入手が必要である。安芸線バスや高知東部交通バスの、なはり線開業前や開業後の輸送人員データや、高校への通学動向など色々必要になるだろう。また、高知県や沿線市町村、そして土佐くろしお鉄道やNPO等がどのような取組みをしているか、またどれくらい成果を上げているかも詳しく調べてみないとならない。
最後に、通勤定期に関しては、農業や自営業など通勤を伴わない職種が多いのを考慮しても、高校生や大学生より年齢層がずっと幅広いので、本来は通学定期以上の潜在需要はあると思う。調べてないからなんとも言えないけど。如何にマイカーでの移動をやめさせるか、それにかかっている。
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